「紙の領収書をスマホで撮影して、画像を残しておけば原本は捨てても大丈夫ですよね?」
結論からいうと、スマートフォンで撮影すること自体は認められています。しかし、スマホで撮った写真をGoogle Driveやパソコンのフォルダに保存しただけで、自動的に電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を満たすわけではありません。
領収書は税務上の証憑です。保存方法に不備があると、税務調査の際に「いつ取り込んだのか」「後から画像を差し替えていないか」「帳簿上の取引とどの領収書が対応しているのか」を説明できなくなります。
便利なアプリを選ぶことより、紙を受け取ってから撮影・確認・保存するまでの運用を決めるほうが先です。ここが曖昧なままシステムだけ導入すると、数年分の領収書が「保存はされているが、運用要件を説明できない」という状態になりかねません。
この記事では、紙の領収書をスマホで撮影して電子保存する際に、税務上どこまで対応すればよいのか、タイムスタンプは本当に必要なのか、原本を捨てる前に何を確認すべきかを、中小企業の実務に沿って整理します。
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紙の領収書はスマホ撮影で電子保存できる。ただし「写真を撮るだけ」では足りない

スマートフォンもスキャナ保存に利用できる
電子帳簿保存法では、一定の要件を満たせば、紙で受け取った領収書や請求書を電子データとして保存できます。これが「スキャナ保存」です。
ここでいうスキャナは、複合機や専用スキャナだけではありません。スマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像も、要件を満たせばスキャナ保存に利用できます。
たとえば、営業担当者が外出先で領収書を受け取った場合、その場でスマートフォンから経費精算システムへ取り込む運用も可能です。領収書を本社へ持ち帰ったり、経理担当者へ郵送したりしてからスキャンする必要はありません。
ただし、ここで注意したいのが、「スマホ撮影が認められている」ことと「スマホで撮影さえすれば電子保存になる」ことは別という点です。
スキャナ保存では、主に次のような項目を確認する必要があります。
- 撮影した画像が必要な解像度・画質を満たしているか
- 領収書を受け取ってから所定の期間内に保存しているか
- 保存後のデータが勝手に削除・差し替えされない仕組みになっているか
- 必要な領収書を後から確認できる状態になっているか
- 帳簿と領収書の対応関係を確認できるか
| 項目 | 問題になりにくい運用 | 注意が必要な運用 |
|---|---|---|
| 撮影 | 指定アプリから領収書全体を撮影 | 各社員が自由にスマホカメラで撮影 |
| 保存 | 経費精算・会計システムへ直接保存 | 写真フォルダや共有フォルダへ保存 |
| 管理 | 訂正・削除履歴などを確認できる | 誰でも自由に削除・差し替えできる |
| 確認 | 必要な証憑を後から確認できる | 大量の画像から目視で探す |
つまり、スマートフォンはあくまで「領収書を電子データへ変換する入口」です。撮影後の保存方法まで含めて要件を満たしているかを確認する必要があります。
LINEやGoogle Driveに写真を残すだけでは不十分になりやすい
中小企業でよくあるのが、「領収書の写真を保存しているから電子化できている」という誤解です。
たとえば、次のような運用です。
- 営業担当者がスマートフォンで領収書を撮影する
- LINEやメールで経理担当者へ送る
- 経理担当者がGoogle Driveや社内共有フォルダへ保存する
- 紙の領収書は処分する
一見すると電子化できているように見えますが、この方法では注意が必要です。
共有フォルダの設定によっては、画像を後から自由に削除・差し替えできる場合があります。また、「いつ保存したのか」「誰が登録したのか」が分からなかったり、数千件の領収書から必要な証憑を探すのに時間がかかったりすることもあります。
特に、ファイル名が「IMG_1234.jpg」のような状態で保存されていると、税務調査や社内確認の際に目的の領収書を探すだけで大きな手間がかかります。
| よくある運用 | 起こりやすい問題 |
|---|---|
| LINEで領収書を送信 | 送信後の保存ルールや管理責任が曖昧になりやすい |
| Google Driveへ画像保存 | 権限設定によっては削除・差し替えが容易 |
| 写真フォルダへ保存 | 取引日・金額・取引先から探しにくい |
| メール添付で経理へ送信 | メールと保存先が分かれ、管理が二重になりやすい |
Google Driveなどのクラウドストレージを使うこと自体が問題なのではありません。重要なのは、利用している保存方法と社内運用を組み合わせたときに、必要な要件を満たせているかどうかです。
「電子化=紙を写真に変えること」ではありません。領収書を受け取ってから、撮影・保存・確認・検索するまでを一つの業務フローとして設計する必要があります。

税務署に説明できるスマホ保存は何が違うのか
領収書は原則200dpi相当以上で読み取る
スキャナ保存では、一定水準以上の解像度で読み取る必要があり、基準は200dpi以上です。現在のスマートフォンであれば画素数そのものは十分な機種が多いものの、「高性能スマホだから自動的にOK」とは判断できません。
また、文字が読めるかどうかも実務上は重要です。金額や日付がぼやけている、領収書の端が切れている、照明が反射しているといった画像を大量に保存すると、後から確認する経理担当者の負担も増えます。
「撮影できた」ではなく「読める状態で保存できた」まで確認する
情シス不在企業では、社員ごとに撮影方法が違うことがあります。机の上で撮る人もいれば、移動中に斜めから撮る人、複数枚をまとめて撮る人もいます。
この状態で「各自スマホで撮影してください」だけをルールにすると、数か月後には画像品質がバラバラになります。経理担当者が毎月数十件を差し戻すことになり、電子化したはずなのに作業量が増えるケースも珍しくありません。
社内ルールでは「領収書全体を入れる」「文字が読めることを確認する」「影や反射を避ける」「指定アプリから直接登録する」といった撮影基準まで決めておくほうが安全です。
| 確認項目 | 危険な運用 | 確認したい運用 |
|---|---|---|
| 撮影 | 各自が自由にカメラ撮影 | 指定アプリ・指定手順で撮影 |
| 画質 | 文字が読めればOKとしている | 200dpi相当以上などの要件を確認 |
| 保存 | 写真フォルダや共有フォルダへ保存 | 保存要件を満たすシステム・運用で管理 |
| 修正・削除 | 自由に差し替え可能 | 訂正・削除履歴など真実性を確保 |
| 検索・確認 | ファイル名を見て探す | 必要な条件から速やかに確認できる |
スマホの性能より、「撮影後にどこへ保存し、誰が確認し、後からどのように探せるか」まで含めた運用設計のほうが重要です。

タイムスタンプは必須ではない。ここを誤解すると余計な費用が発生する

「電帳法対応にはタイムスタンプ必須」という説明は、そのまま受け取らない
電帳法対応のシステム提案で、費用差が出やすい項目の一つがタイムスタンプ機能です。
営業担当者から「電子帳簿保存法に対応するにはタイムスタンプが必要です」と説明され、そのまま上位プランや有料オプションを契約している企業もあります。
ただし、紙の領収書をスキャナ保存する場合、タイムスタンプは必ずしも全社で必須ではありません。
一定の要件を満たし、入力期間内にデータを保存したことを確認できる仕組みがある場合には、タイムスタンプの付与に代えることができます。
そのため、確認すべきなのは「タイムスタンプ機能が付いているか」だけではありません。次のような点まで確認する必要があります。
- タイムスタンプを使わずに真実性を確保できる仕組みがあるか
- 訂正・削除を行った場合に履歴を確認できるか
- 入力期限内に保存したことを確認できるか
- 自社の運用で、その仕組みを継続して守れるか
- システムだけで満たせない要件を誰が運用で補うのか
| 確認項目 | タイムスタンプあり | タイムスタンプなし |
|---|---|---|
| 真実性の確保 | タイムスタンプ付与によって確保する方式 | 訂正・削除履歴や入力時期を確認できる仕組みなどで対応 |
| 費用 | オプション料や上位プラン料金が発生する場合がある | 追加費用を抑えられる場合がある |
| 社内運用 | システム側で管理しやすい場合がある | 入力期限や運用ルールの管理が必要になる場合がある |
| 判断ポイント | 本当に自社に必要な機能か | 代替要件を確実に満たせるか |
つまり、「タイムスタンプがある=電帳法対応」「タイムスタンプがない=非対応」ではありません。
利用する経費精算・会計システムが、どの仕組みで保存データの真実性を確保しているのか。その仕組みが自社の運用に合っているのかまで確認して判断する必要があります。
タイムスタンプ機能のためだけに高額プランへ上げていないか
特に10〜30名程度の中小企業では、必要以上に高機能なプランを契約しているケースがあります。
この場合、タイムスタンプを使いたいという理由だけで上位プランへ変更すると、使わない機能のためにも毎月料金を払い続けることになります。
月額差が小さく見えても、人数と契約期間を掛けると無視できない金額になります。
| 条件 | 月額差 | 5年間の追加費用 |
|---|---|---|
| 1人あたり月300円差・30人 | 9,000円 | 540,000円 |
| 1人あたり月500円差・30人 | 15,000円 | 900,000円 |
| 1人あたり月500円差・50人 | 25,000円 | 1,500,000円 |
「1人あたり月500円しか違わない」と聞くと小さく感じますが、50人が5年間利用すれば150万円の差になります。
そのため、プラン比較では初期費用だけでなく、「月額単価×利用人数×利用月数」で総額を確認してください。
一方で、単純に安いプランを選べばよいわけでもありません。システム側で保存要件を満たせない部分が多いと、経理担当者が手作業で管理することになり、結果として人件費や確認作業が増えることがあります。
システム選定では、「タイムスタンプあり・なし」で比べるのではなく、「このプランで電帳法のどの要件まで満たせるのか」「残りは社内で何をする必要があるのか」を販売会社に説明してもらうことがポイントです。
見積書を確認するときのポイント
「電帳法対応オプション」「タイムスタンプ利用料」などの項目がある場合は、外すと具体的にどの要件を満たせなくなるのかを確認してください。説明が曖昧な場合は、その費用が本当に必要なのか再確認する余地があります。

古いNASやVPNを使っている会社は「電子保存できた後」の障害にも注意する
領収書を電子化したのに、NAS故障で開けないという失敗
紙の領収書を電子保存へ切り替えると、ファイルを探したり、保管スペースを確保したりする手間は減ります。
一方で、保存先のシステムが止まると、会社全体で証憑を確認できなくなるという新しいリスクが生まれます。
特に、領収書や請求書を社内NASへ保存している会社では、次のようなトラブルがそのまま業務停止につながります。
- NAS本体の故障
- HDDの故障
- バックアップの未取得・取得失敗
- アクセス権限の設定ミス
- ランサムウェアによる暗号化
- 管理者しか復旧方法を把握していない
よくある誤解が、「RAIDを組んでいるからバックアップは不要」という考え方です。
RAIDは、主にHDD故障時でもデータを継続利用しやすくするための仕組みです。誤操作による削除やランサムウェアによる暗号化、NAS本体の故障、災害まで防げるわけではありません。
| 対策 | 主な目的 | 防げないものの例 |
|---|---|---|
| RAID | HDD故障時の耐障害性を高める | 誤削除、ランサムウェア、NAS本体故障 |
| バックアップ | 消失・破損したデータを復元する | バックアップ先まで同時に暗号化された場合 |
| クラウド・外部保管 | 物理障害や災害時の復旧性を高める | アカウント侵害や設定ミス |
さらに注意したいのが、バックアップをNASと同じネットワーク内に置いているケースです。
ランサムウェアが社内ネットワークへ侵入すると、NAS本体だけでなく、常時接続されているバックアップ先まで暗号化される可能性があります。紙の領収書を廃棄し、電子データを中心に管理するほど、「保存できるか」より「障害時に戻せるか」の確認が重要になります。
古いNASを継続利用する場合は、最低でも次の項目を確認してください。
- メーカーサポートが終了していないか
- HDDを何年間使用しているか
- バックアップ先がどこにあるか
- バックアップが正常に取得できているか
- 復旧方法を誰が把握しているか
- 実際に復元テストをしたことがあるか
「バックアップ設定済み」という表示だけで安心せず、実際にデータを戻せるところまで確認しておく必要があります。
VPN停止で経理担当者が証憑を見られなくなる構成もある
テレワーク中の経理担当者が、VPN経由で社内NASへ接続して領収書や請求書を確認している会社では、VPN障害がそのまま経費処理停止につながります。
古いVPNルーターを長期間使っている会社では、単純な機器故障だけでなく、ファームウェア更新の終了や既知の脆弱性への対応状況も確認が必要です。
電子保存を始めるタイミングでNASだけを新しくしても、VPN機器が古いままでは、社外から利用するための入口が弱いまま残ります。
| 確認項目 | 注意したい状態 | 確認したい内容 |
|---|---|---|
| VPN機器 | 導入から長期間経過 | メーカーサポート・更新期限 |
| 同時接続数 | 常に上限近くまで利用 | 実際の最大利用人数 |
| 通信性能 | VPN利用時だけ極端に遅い | 実効通信速度・処理性能 |
| 障害時 | 復旧方法が業者任せ | 連絡先・代替手段・復旧時間 |
| 保守 | 契約内容を把握していない | 機器交換・設定復旧まで含むか |
ただし、「VPNが古いから」という理由だけで、最新の高性能UTMへ交換すればよいわけではありません。
「上位モデルだから安心」という営業トークより、自社の利用実態に対して必要十分な性能かどうかを確認したほうが、余計な費用を抑えやすくなります。
電子保存では保存先だけを見ないことが重要です。社内NASを使うなら「NAS・バックアップ・VPN・復旧方法」を一つの構成として確認してください。クラウド保存を使う場合は、代わりに多要素認証、管理者権限、退職者アカウントの削除、バックアップ・復旧方針を確認する必要があります。

紙の領収書を捨てる前に社長が確認したい7項目

最終チェックはこの7項目で行う
紙の領収書をスマホ保存へ切り替える会社では、最低限、次の項目を社内で確認してください。全部を社長自身が設定する必要はありませんが、誰が責任を持つのかは決めておく必要があります。
以下の7項目について、販売会社や会計事務所へ質問しても回答が曖昧なら、紙を捨てる判断を急がないほうが安全です。
- スマホ撮影時に必要な解像度・画質を満たせるか
- 領収書を受け取ってから入力する期限が決まっているか
- タイムスタンプまたは代替する仕組みを確認したか
- 訂正・削除に関する真実性確保の方法を確認したか
- 必要な証憑を速やかに表示・確認できる環境があるか
- 会計帳簿と領収書の対応関係を追える運用になっているか
- 原本を廃棄する前に保存状態を確認する工程があるか
また、制度改正によって要件が変わることがあります。過去に作った社内マニュアルを何年も更新していない会社では、現在の制度と運用がずれていないか確認してください。
「電帳法対応製品です」ではなく自社の運用を確認する
経費精算サービスや会計ソフトのWebサイトには「電子帳簿保存法対応」と書かれていることがあります。ただし、その製品を契約しただけで自社のすべての運用が自動的に適法になるわけではありません。
どの機能を使うのか、社員がどのタイミングで撮影するのか、保存後のデータをどのように管理するのかまで含めて確認する必要があります。
契約前に、電帳法の要件とシステム機能の対応表を出してもらうと、この認識違いを減らせます。
電子帳簿保存法対応で見るべきなのは「どのアプリを買うか」ではありません。「紙を受け取る→撮影する→確認する→保存する→検索する→障害時に復旧する」という一連の流れを、税務調査時にも説明できる状態にすることです。
まとめ|スマホ撮影は入口。電子保存は「仕組み」で判断する

紙の領収書はスマートフォンで撮影して電子保存できますが、写真をフォルダに残すだけでは十分ではありません。読み取り時の要件や入力期限、データの真実性、必要な証憑を確認できる環境まで含めて、自社の保存方法を整える必要があります。
また、紙を廃棄して電子データ中心にするほど、NAS故障、VPN停止、ランサムウェア、バックアップ不備などへの備えも欠かせません。見積もりでは「電帳法対応一式」をそのまま受け入れず、設定費・保守費・ライセンス費などを分け、3年・5年の総額で比較することがポイントです。
今日からできる3つのこと
- 保存方法を確認する
→現在の領収書が「どこに・どのように」保存されているか確認する - 見積もりを分解する
→「一式」の内訳と、各機器・オプションが必要な理由を業者に確認する - 障害時を確認する
→NASやクラウドが止まった場合のバックアップ先と復旧方法を確認する
紙の領収書、スマホで撮影するだけで電子保存していませんか?
タイムスタンプ、保存方法、NAS・VPN、保守費、ライセンス費まで含めて、
専門コンサルタントが
過剰な構成や不要な費用がないか
確認します。
※すでに業者から見積もりを受け取っている方のセカンドオピニオンも歓迎です。
※しつこい営業電話は一切いたしません。

